今回はコーポレートガバナンス・プラクティスの評価の高い会社にはどのような傾向があるのか、また、コーポレートガバナンス・プラクティスと会社の収益性、バリュエーションにどのような関係があるのかについて考えてみたいと思います。
Metricalでは2018年2月から約1,800社をユニバースとして、有価証券報告書、コ―ポレートガバナンス報告書、決算短信など公開情報をもとに40以上の評価項目で評価し、月次でアップデートしています。また、Metricalではコーポレートガバナンス分析はボードプラクティスとキー・アクションに分かれています。それは会社経営の目標である価値創造のために、ボードプラクティスだけでなくボードプラクティスの改善がディシジョンやアクション(キー・アクション)につながって、価値創造に寄与するとの仮説に基づいています。言い換えれば、取締役会の構成などボードプラクティスの部分を形式的に整えたとしてもそれが価値を生み出す経営に生かされていないかもしれません。ボードプラクティスの改善が実際のアクションにつながり、価値を生み出すことがコーポレートガバナンスの改善であるべきと考えます。このような考えをもとに評価するMetrical CGスコアと会社の収益性、バリュエーションにどのような関係があるのか下記に述べてみます。
Metricalユニバース1,819社(2024年3月)をMetrical CGスコアで5つのグループ(80%以上、70%以上80%未満、60%以上70%未満、50%以上60%未満、50%未満)に分けて各項目で分析します。Metrical CGスコアの中央値は61.32%です。
下表はMetricalユニバース1,819社(2024年3月)をMetrical CGスコアで5つのグループ(80%以上、70%以上80%未満、60%以上70%未満、50%以上60%未満、50%未満)に分けてプロファイルを示しています。上述の通りコーポレートガバナンス・プラクティスが良い会社は価値を創造するべきだと信じていますが、Metrical CGスコアの評価方法を意図して設計したわけでないにも関わらず、Metrical CGスコアが高い会社ほど収益性、時価総額およびバリュエーションが高い傾向が顕著です。下表が示す通り、外国人持ち株比率の差がMetrical CGスコアになって現れていると言えます。プロファイルの項目の中で外国人持ち株比率はMetrical CGスコアと最も高い相関を示していることがこのことを表しています。つまり、海外投資家はコーポレートガバナンス・プラクティスおよび収益性が改善しているかに関してとても強い関心があるのです。それゆえに彼らはエンゲージメントを通じてコーポレートガバナンス・プラクティスおよび収益性の改善を経営者に求めます。Metrical CGスコアが高い会社(表面的な取締役会構成だけでなく実際に価値創造に結びつくようなキー・アクションを実行する会社)はそのような長年の活動が身を結んだ結果であると考えられます。そのような価値の創造と投資家の評価によって、時価総額が増加し、相対的に高いバリュエーションが実現したと考えられます。
下表はMetrical CGスコアの5つのグループに分けてボードプラクティスの特徴を示しています。ボードプラクティスの項目によって、会社の取り組みのペースに違いがあることがわかります。2021年のコーポレートガバナンス・コード改定でプライム市場上場会社は独立取締役1/3以上、指名および報酬委員会(任意の委員会を含む)の設置と独立性確保(委員の過半数を社外取締役が占める、委員長を社外取締役が務める)が求められました。その結果、Metrical CGスコア60%以上の会社が指名および報酬委員会の設置と独立性確保の条件を整えました。一方で、独立取締役比率と女性役員比率はMetrical CGスコア80%以上の会社と70%以上80%未満の会社が先行していることがわかります。これら2つのグループは合わせて全体の17.2%の会社で、その特徴は外国人持ち株比率の中央値がそれぞれ37.15%と27.60%です。外国人持ち株比率が30%台になると、会社は海外投資家の意見を取り入れる傾向があります。このことから、これら2つのグループは独立取締役比率の中央値が50%に達しています。また、女性役員比率でもまだ低い比率ながらも他のグループを先行して取り組んでいることがわかります。
下表はMetrical CGスコアの5つのグループに分けてキー・アクションの特徴を示しています。キー・アクションの評価項目の中でグループ間にあまり差がないのがAGM Disclosures Scoreです。議決権行使において電子プラットフォームに多くの会社が参加し、多くの会社が早めに招集通知の送付するようになったことなどが要因と考えられます。一方で、IR Disclosures Scoreでは英文開示には外国人持ち株比率が最も高いMetrical CGスコア80%以上の会社のグループが先行しています。また、このグループは成長(Growth Policy Score)と株主還元(Dividend Policy Score、Treasury Stocks Retirement)のバランスが他のグループよりも実行できていると推察されます。一方で、Cash Holding Scoreには他のグループとあまり大きな差がないので、このグループは手元キャッシュをもっと還元することができます。Policyshare Holding Scoreも他のグループよりも高いので、海外投資家から政策保有株の削減を強く求められ、それを徐々に実行移し始めている様子が窺われます。
まとめると、コーポレートガバナンス・プラクティスの評価の高い会社にはどのような傾向があるのか、また、コーポレートガバナンス・プラクティスと会社の収益性、バリュエーションにどのような関係があるのかについて考えてみました。
Metricalユニバース1,819社(2024年3月)をMetrical CGスコアで5つのグループ(80%以上、70%以上80%未満、60%以上70%未満、50%以上60%未満、50%未満)に分けて各項目で分析します。Metrical CGスコアの中央値は61.32%でした。
Metricalユニバース1,819社をMetrical CGスコアで5つのグループ(80%以上、70%以上80%未満、60%以上70%未満、50%以上60%未満、50%未満)に分けてプロファイルを見ると、Metrical CGスコアが高い会社ほど収益性、時価総額およびバリュエーションが高い傾向が顕著です。
外国人持ち株比率はMetrical CGスコアと最も高い相関を示していることから、海外投資家はコーポレートガバナンス・プラクティスおよび収益性が改善しているかにとても強い関心があります。海外投資家の長年にわたるエンゲージメントの結果、外国人持ち株比率が高い会社はコーポレートガバナンス・プラクティスおよび収益性を改善してきたと考えられます。
ボードプラクティスの項目によって、会社の取り組みのペースに違いがあることがわかります。指名および報酬委員会(任意の委員会を含む)の設置と独立性確保はプライム市場上場会社の要件として求められているので、Metrical CGスコア60%以上の会社で差異はありません。一方で、独立取締役比率と女性役員比率はMetrical CGスコア80%以上の会社と70%以上80%未満の会社が先行しています。これら2つのグループは高い外国人持ち株比率を背景に他のグループを先行して取り組んでいます。
Metrical CGスコアの5つのグループにおけるキー・アクションでも特徴が見られます。Metrical CGスコア80%以上の会社のグループは外国人持ち株比率が最も高いことを背景に英文開示の取り組みに先行しています。また、このグループは成長(Growth Policy Score)と株主還元(Dividend Policy Score、Treasury Stocks Retirement)のバランスが他のグループよりも実行できていると推察されます。これも海外投資家のエンゲージメントによるものと思われます。