社外取教訓#9:CEOの交代・選定

もしあなたが「社外取教訓#8:役員会の役割」で述べたような、CEOを解任しなければならないような状況に陥った場合、どうすれば良いでしょうか。まず初めに、株主総会よりも前の時点で、投資家が後任のCEOとして望んでいる(と思われる)人物に会いに行きます。その人が本当にそのポジションに就きたいのか、その理由は何なのか、どのようにリーダーとして舵を取るつもりなのか、尋ねることから始めてみましょう。CEOはどんな時だって大変な仕事で、他の仕事もあればなおさらです。はっきりした答えが返ってこないかもしれないし、消極的な合図を送ってくるかもしれません。それ自体、重要な情報なのです。
次に、日本ではほとんどの場合、株主総会の直後に取締役会が開催され、すぐさまCEOの選定(または再選定)やその他の決定事項を済ませます。代表取締役(CEO)は後でいつでも変更できますが、従前の代表取締役が任期満了後に取締役として再任された場合、その人をCEOに再び選定するか、別の人を選定するか、あるいはもう一人別の人に「代表取締役」の肩書を与えるかを決めなければなりません。すぐに選定しないと、法的に会社を率いる代表取締役がいなくなってしまいます。
つまり、総会直後にこの話題が出ることは分かりきっているのですから、あらかじめ取締役会で言うセリフを用意しておく必要があります(必要に応じて、個人として弁護士とも相談してください)。取締役会議長か他の取締役の誰かが、新任取締役の一人(Xさん)を新しい代表取締役CEOに選定すると提案したとします。前のCEOは総会で取締役に再任されたとしても、代表取締役として改めて選定されなければ、事実上CEOとして解任されたことにほかなりません。Xさんを後任とするの議案が出たときに、十分な判断材料がないのであれば、「この決議には賛成できません」と答えてよいのです。 「新しいメンバーが揃ったばかりの取締役会で、皆さんはどうしてこんなに早く意見がまとまるのか不思議だ」と思ってもおかしくありません。ですから、「当面は現CEOを続投させる方が理にかなってます」とコメントしても良いのです。
そして、「2ヵ月後にCEOの交代を検討してもよい」と逆に提案してみましょう。「それまで、このテーマについて意見をまとめることができるはずです。決断はしばらく延期しましょう。 私たちには、すぐに対処すべき緊急の事案が他にもたくさんあります。しかも、Xさんは「社外取締役」、つまり「業務執行役員ではない」と招集通知で明言したばかりです。株主総会から5分後にすぐさま彼を代表取締役に選定することは、少なくとも会社として誤解を招きかねない開示であり、金商法上の虚偽記載とみなされる可能性さえあります。」と言えるでかもしれません。
日本では、いや、どこの国でも、ほとんどの取締役会は全会一致で決定することを望みます。このような「とりあえず反対することが妥当だ」アポローチをとれば、ほぼ確実に解任計画は止まり、会社にとって何が最善かを考える時間を持てるでしょう。それでも中止されない場合には、採決の前に自分が議案に反対する(上記の)理由を取締役会議事録に細かく記載するよう具体的に要求してください。それでも結果が変わらなければ、最後に、辞任を検討すると発言する選択肢もあります。そんな状況では辞任を真剣に考えているかもしれませんが。
ニコラス・ベネシュ
(個人的な立場で書いており、いかなる組織を代表する立場ではありません)。
備考:私がライブドアの取締役会で起こったことを語れるのは、同社がもう存在しないからです。通常、取締役は会社に対して「守秘義務」を負っており、取締役会の議論や機密事項については、死ぬまでその義務が続きます。しかし、ライブドアはもう存在しないので、私が義務を負うべき対象会社はもう存在しないのです。