社外取教訓#2:社外取締役として初めて経験したこと

なぜ、社内外取締役の育成が日本の将来にとって重要だと思うのか。それは、私が日本では取締役会がうまく機能しないときに、舞台裏で何が起こっているのか、どんな損失や痛みが生じているのか、たくさん見てきたからです。私は、英語で言うところの「傷跡」がたくさんあります。 本当に興味深いのは、ガバナンスが不十分な原因には多くの共通点があることです。 会社の規模や業種は関係ないようです。トルストイの言葉の真逆で、「成功する日本の取締役会はすべて違うように成功するが、失敗する取締役会はすべて同じように失敗する」ように感じます。だとしたら、ガバナンスの失敗を避けるのはそんなに難しくないように思います。
私が日本で初めて社外取締役を経験したのは2000年、当時率いていたM&Aアドバイザリーブティック、株式会社JTPが地図データをマーケティング等を使うソフトを売っていた米国のMapInfo社に対して、名古屋のアルプス社による25%の増資および戦略的提携の締結について助言したことに始まります。 アルプス社は、当時国内第3位の地図出版社で、未上場企業でしたが、将来的にIPOをする予定でした。MapInfo社には日本人従業員もいなかったので、私はMapInfo社だけでなく、他の株主の利害も守るために、MapInfo社にアルプス社の社外取締役に指名されました。
当時、世の中はインターネットやデジタルデータ化に移行しつつありました。紙媒体紙の地図は、市場規模として大幅に縮小していくことは明らかでした。それがMapInfo社との戦略的提携の主な理由でした。アルプス社の高品質な地図データは、企業向けに販売されているMapInfo社のマーケティングなどの分析用ソフトウェアに利用することができたのです。 しかし、将来においてアルプス社の地図(データ)を個人消費者にも提供するためには、新興市場であるインターネット上で大きな存在である企業との提携(もしくはアルプス社の企業売却)も必要であることは明白でした。提携の相手候補は限られていたため、急ぐ必要がありました。
その後6年間、私は社外取締役として、このような提携がいかに急務であるか、また、突然の利益不振のリスクが大きいため、とにかく増資して資本金の「クッション」を増やす必要があることを取締役会に説得するよう頑張りました。 数年後、とりあえずMapInfo社は二回目の増資に投資し、出資比率を50%まで引き上げました。私は、アルプス社にいくつかの資本提供先を紹介しましたが、その度に役員会から「独立性を保てるのでVCやPEファンドへの増資や売却は構わないが、戦略的買収者(事業会社)への売却は検討したくない」と言われました。私はM&Aの専門家として、「まったく逆だ」と答えました。「 戦略的買収者と取引する場合、誰が長期的に『いい親会社』になるのか、どんなシナジー(相乗効果)があるのかがわかっているので、それを基準に選ぶことができる。 しかし、ファンドに売却する場合、間違いなく、見つけ次第、会社を最も高額の買い手に(誰でもいいから)直ぐに売却する。彼らに売ることによって、あなたは将来の親会社を選ぶコントロール権を失うことになるのです。」と言いました。
そこで私は、ヤフー(Yahoo.co.jp)に対して、アルプス社がMapInfo社以外にも戦略的提携を結びたいのではないか、とほのめかしました。ヤフーからは、「それなら、会社を買いたいです」という返事が戻って来ました。そのことを取締役会に伝え、せめて社長がヤフーと会うことを提案したところ、取締役会はヤフーと話し合うことさえ拒否しました。 取締役は、技術者や地図出版・販売業でキャリアを積んできた人が多かったので、財務諸表を理解するのが難しく、2~3億円ずつ6つの銀行から借りていたため、財務状況がいかにリスキーになっているかを実感することができませんでした。役員や社員は全員給料をまだもらっているし、書類上は利益が出ているように見える。 何をそんなに心配する必要があるのですか?
次に何が起こったと思いますか?
ニコラス・ベネシュ
(個人的な立場で書いており、いかなる組織を代表する立場ではありません)。
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