社外取教訓#11:委員会に必要なルール

ライブドア社で社外取締役に就任してすぐに、M&Aやファイナンスなど粒度の細かなことを統括する「(諮問)委員会」を取締役会に設置することを提案しました。取締役全員が細部まで監督する必要はないと考えたからです。 しかし、新任の社外取締役間で信頼関係が希薄だったこともあり、誰もがすべての委員会のメンバーになりたがり、それを拒むことはできませんでした。その結果、(皆が参加する)「委員会」は正式な「取締役会」ではないがために、委員会の重要な議論が正式な取締役会議事録に必ずしも反映されなくなってしまったのでした。提案したときにはそんなつもりはなかったのに。
2007年当時の私はまだまだ社外取締役として未熟でした。 取締役会の役割と義務を定めた「規則」を定め、記録保存のルールや手続きについて前もって合意しておかなければ、記録保存はほとんど行われないかもしれないと、そのとき気づいたのです。 あるいは、記録が残されていても、作成者が恣意的に選択した議題や内容が記録されるだけ、ということもありえます。問題を把握した時点では、過去の議論をちゃんと残すようにお願いするには遅すぎました。英語で言うところの”the cat was out of the bag”(取り返しがつかないことがもう起きてしまった )という表現がまさしく当てはまる状況です。私はこのことで、全員が同意する(つまり納得する)議事録を作る必要のない「任意」の委員会を作ることの弊害を学びました。
議事録がない場合に起こりうるようなことの例をもう一つ挙げます。 デリケートな問題を処理するために「特別委員会」を設置した数ヶ月後になって、ある取締役が突然、「どうしてY社はXYZ社(子会社)を買収してはいけないのですか?」と聞いてきたのです。単に委員会の議題でないことを質問してきただけに留まらず、その質問をすること自体が、価値あるすべての資産を競争入札方式によって売却するという私たちのポリシーに反することを意味していました。 私は、「Y社はいつでもXYZを買えます。競争入札で最高額で入札する限りは。」と答えました。 この返答で、質問してきた取締役は黙ってしまいました。
後から振り返ってみて思うのですが、もし、委員会では毎回議事録や記録を作成して全員で同意しておくというルールがあれば、こんな質問をされることはなかっただろうなと。
ニコラス・ベネシュ
(個人的な立場で書いており、いかなる組織を代表する立場ではありません)。
備考:私がライブドアの取締役会で起こったことを語れるのは、同社がもう存在しないからです。通常、取締役は会社に対して「守秘義務」を負っており、取締役会の議論や機密事項については、死ぬまでその義務が続きます。しかし、ライブドアはもう存在しないので、私が義務を負うべき対象会社はもう存在しないのです。
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