ESGの時代だからこそ、議案毎の議決権行使を「見えるか」に

April 10, 2022

2010年に、金融庁の勉強会にて(1)「投資助言業務」を行う者に善管注意義務を明確に追わせて、(2)機関投資家に対して、投資先企業の株主総会で審議された議案毎の議決行使結果を一般開示すべきである、と提案した。

時期尚早だったが、その後善管注意義務に近い「スチュワードシップ」発想が日本に到来し、コーポレートガバナンス・コードの原点となった。

2014年にスチュワードシップ・コード(SC)が具体化される中、私は自民党の日本経済再生本部へのスピーチで「ガバナンスに関する企業間の比較を容易にするディスクロジャー・ルールが少ないため、スチュワードシップなどのせっかくの制度が十分に機能せず、『絵に描いた餅』になりかねない。」と警鐘をならしてコーポレートガバナンス・コード(CGC)を提唱した。自身が2013年に議員に提出したメモに沿って、二つのコードは「車の両輪」として機能する、というロジックがその時点で受け入れられた。

結局SCとCGC両方が制定され、SCには法律上の強制力はないが、指針5-3には説明責任の一環として「機関投資家は、議決権の行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すべきである」と書いてある。すべてのSC署名運用機関は公表していないが、大手の多くは開示している。

ここまでは大きな進展だったが、「悪魔は細部に宿る」。

任意参加のSCだから、公表しない投資家もあるし、公表されている場合でもデータが統一化された(機械可読の)フォーマットで一元化されていない問題が残っている。このデータはアセットオーナー、受益者、企業、個人などにはとても参考になるが、それを集めて分析するのに各々の運用業社のウエブサイトからPDFファイルを収集して、その膨大な情報をデータベースに手入力しなければならない。

ここでSCのリーダ的存在である金融庁はとても重要な役割を果たすことができる。SC署名者に対し、この情報を標準化されたXBRLフォーマットで提出することをお願いし、EDINETのようなプラットフォームに当情報を公表することによって、「車の両輪」が回るための更なる貢献ができる。

逆にそのようにしなければ、ISSBによるESG情報開示の標準化が進んでも、アセットマネジャーはその情報を受けてどのように動いているかが分析しにくいままになる。社会のためにアセットマネジャーがエンゲージメントおよび議決権行使の質で競争してほしいのだが、十分にそうなっていないという問題が残る。

ニコラス ベネシュ