アベノミクス、真の審判は総選挙後―初の企業統治指針に注目

https://jp.wsj.com/articles/SB12598258265585683745604580316243833911682

By NICHOLAS BENES

2014年12月4日 16:46 JST

原文 (英語)

アベノミクスの成否は、総選挙後に策定されるコーポレートガバナンス・コードにもかかっている

 

 安倍晋三首相は14日に投開票される総選挙をアベノミクスの是非を問うための国民投票と位置づけているが、本当の審判はその後にやってくる。国内外の投資家は数カ月中に投資資金を動かすという形で投票を行うだろう。焦点は、アベノミクス「第3の矢」である成長戦略が真の改革をもたらすのか、あるいは与党が労働者や企業の既得権益に支配され続けるのか、という点だ。

 投資家は明確なリトマス紙を持つことになる。向こう4カ月内に金融庁と東京証券取引所が事務局となって国内初となるコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の最終案がまとまるが、ここに正しい構成要素が付け加えられれば経済改革が本当の意味で前進することになる。

 現在の草案にはいくつかの欠点があるが、最終案の策定プロセスは正しい方向に進んでいる。事務局が約束した数週間にわたる集中審議を経て、最終案が十分な中身を備えたものになるなら「買い」の投資判断に値するだろう。

 首相や改革を支持する政府機関に対抗する主要な勢力は経団連になるだろう。一方、経済同友会は強固なコーポレートガバナンス・コードを支持すると表明している。

 日本に最も必要なのは、税収を損なうことなく、経済全体で労働生産性と資本生産性を増強する政策だ。この要件を満たすアプローチは3つある。コーポレートガバナンスの改善、労働移動規制の緩和、移民の受け入れだ。特に最後の移民受け入れは現在も明確なタブーとして残っている。

「ルールに従うべし、さもなくば説明せよ」

 最も早く改善できそうなのはコーポレートガバナンスだが、政治家がこれまで既得権益を打ち破ることができなかったことはその困難な歴史が証明している。これに関して6月に発表された政府の成長戦略では、「comply or explain(ルールに従うべし、さもなくば説明せよ)」という最善の慣行(ベストプラクティス)を示すガバナンス・コードを普及させることで企業収益を拡大させるという大胆な目標が掲げられた。コードの策定に当たっては、東京証券取引所のコーポレートガバナンスに関する既存のルール・ガイダンス等や「OECDコーポレートガバナンス原則」を踏まえ、我が国企業の実情等にも沿い、国際的にも評価が得られるものとする。成長戦略は、来年6月の株主総会シーズンに間に合うように指針を普及させるよう求めている。

 こうした明快さはコーポレートガバナンスをめぐる過去15年にわたる議論に大きな変化が生じたことを示している。また、金融庁がコードの草案策定を監督していることも重要だ。金融庁は投資家保護や資本市場の活性化、証券取引所の規制という法律で定められた任務を負う唯一の機関だからだ。同庁は任務を遂行する正しいインセンティブも持っている。

 金融庁と東証は8月、機関投資家の代表や会計事務所、独立社外取締役、ガバナンスの提唱者、弁護士、2カ国語を話す外国人などを集めた有識者会議を開いた。この会議に参加した経団連の代表者は1人だけだった。

 コーポレートガバナンス・コードと「最善の慣行」という概念そのものが日本にとって新しいため、こうした問題が正式に議論されること自体が大きな進歩だ。有識者会議の一部メンバーは非常に詳細な案を含むいくつかの提案を出し、強固で野心的なコードを急ぐよう力説するメンバーもいた。

 金融庁が公表した11月25日付の「コードの基本的な考え方に係るたたき台」は、前回の草案よりも良くなっている。たたき台では「独立社外取締役の複数名設置」について、「ルールに従うべし、さもなくば説明せよ」ルールを適用する方針が示された。このほか、取締役会の役割や独立社外取締役の機能、取締役のトレーニングや自己評価などの重要項目が詳細に記された段落が含まれている。

裏取引で骨抜きにされないか

 しかし、最終案がまとまるまでは終わりではない。国内の強力な業界団体は裏取引を通じ、実現する直前に重要な政策を骨抜きにしてしまうケースがよくあるからだ。このため、今後数週間の間に改革推進派が草案の基本原則の削除や緩和を求めるロビー団体と対決するのは間違いない。この基本原則はむしろ強化する必要があるくらいだ。

 最終案に「ルールに従うべし、さもなくば説明せよ」ルールにのっとった以下のような最善の慣行が反映されれば、安倍政権は成功したことになる。

・企業の取締役会に少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任するよう求めるルール

・独立社外取締役のみを構成員とする諮問委員会の設置――この委員会が取締役の選任や役員報酬、さらにマネジメントバイアウト(経営者による買収)交渉や値決めなど、経営者の利益が株主の利益から逸脱する可能性のある問題を取り扱う

・諮問委員会の手続き、監査役との情報共有、独立社外取締役と監査役のみが出席する「一般には公開されない」会合、独立社外取締役と投資家との対話に関するルール

・新任の取締役と監査役全員を対象にしたトレーニングやオリエンテーション、現在進行している規約改定や新たに発生しつつあるリスクのアップデート

・プロセスと結果の情報開示を含めた取締役会と取締役の査定

・上記の全項目に関わる各企業の内部規定とガバナンス慣行の公開

 こうしたコードの策定は、安倍氏の率いる自民党が日本にとって最も重要な「投票」で勝利することを意味する。審判は翌朝の市場で下されるのだ。

(筆者のニコラス・ベネシュ氏は公益社団法人・会社役員育成機構[BDTI]の代表理事)