仲浩史東大教授「日本企業における内部監査機能の強化に向けた政策提言」について(情報共有)

■東京大学未来ビジョン研究センター・仲浩史教授が行なった「日本企業における内部監査機能の強化に向けた政策提言」(別添資料)が波紋を呼んでいます。「内部監査部門は取締役会、監査委員会、監査等委員会へのレポート・ラインと社長へのレポート・ラインの二つを内部監査規程で定めるべき」としながら、「監査役(会)へのレポート・ラインは望ましくないと考える」と主張し、それが日本内部監査協会のHPで紹介されたからです。仲教授は大蔵省出身で、2014年から4年間は世界銀行副総裁兼内部監査総長として世界銀行グループの業務戦略やオペレーションの内部監査を指揮した経験を持ちます。米国を中心にした、内部監査の国際動向には詳しい方のようです。本提言は、日本内部監査協会『月刊監査研究』2019年12月号の研究成果の一部とのことですが、仲教授は『月刊監査研究』2020年2月号の座談会でも、同様の趣旨の発言を繰り返し行っています。以上の経緯から、日本内部監査協会の公式見解或いはそれに近い意見ではないかとの疑問が広がりました。 提言の一部の文言を取り上げて内部監査協会に抗議的な申し入れをするつもりはありませんが、レポート・ラインから監査役(会)を除外する見解には全く同意できないのは当然のことです。機関設計の違いにかかわらず、内部監査の独立性と客観性を確保するためには、経営トップと並行して経営トップから独立した機関へのレポート・ライン(単なる報告だけではなく指示命令権や内部監査部門長人事への関与権を含む)の確立が必要です。 ■とは言え、ここで提起された問題は監査役と内部監査部門の提携の深化を検討するうえで重要な課題を孕んでいるように思えます。本提言の全体の趣旨は、内部監査の機能を次のような方向で強化することにより、日本の内部監査の高度化を目指したものと考えられ、首肯できる部分も多くあります。 1. 内部監査機能の進化の方向 「守りのガバナンス」(コンプライアンスなど価値保全を中心した監査)と同時に「攻めのガバナンス」(ビジネスモデルや経営戦略などの価値向上創造に関わるリスクの監査)の担い手へと進化する。いずれはTrusted Advisorへと内部監査部門が歩みだす。 2. 内部監査部門への信頼を向上させる施策 社外取締役を含めた取締役会とのインターアクションをさらに増やすこと、二重レポート・ライン(dual reporting line)を適切に整備すること、コンサルティング業務(アドバイザリー業務)へのマネジメントの認識を高め、活用を促していくこと、経営上層部における内部監査部門への理解を長期的に高めるために内部監査部門での経験を経営上層部へのステップとして人事上運用すること。 3. 二重レポート・ライン(dual reporting line) 内部監査部門がエグゼキュティブ・サポートの源を二つ持つことは、単一のレポート・ラインよりも強いサポートを得ることにつながり、 内部監査部門の独立性・客観性を担保する上でも、二つのレポート先との適度なバランスが意味を持つ。 取締役会、監査委員会、監査等委員会へのfunctionalなレポート・ラインと社長へのadministrativeなレポート・ラインの二つのレポート・ラインを内部監査規程で定めるべきであるが、監査役(会)へのレポート・ラインは望ましくないと考える(攻めのガバナンスにおける監査役(会)の役割が事実上限定的な点を踏まえると)。 ■重要なポイントは、「監査役(会)へのレポート・ラインは望ましくない」理由として、「攻めのガバナンスにおける監査役(会)の役割が事実上限定的な点」を挙げていることです。ここでいう「攻めのガバナンス」とは、「ビジネスモデルや経営戦略などの価値向上創造に関わるリスクの監査」を指しています。こうした見解に日本内部監査協会が共感を寄せている現実は、無視できず、その要因を探る必要があります。 背景には、内部監査が経営監査を目指して「高度化」を図っているのに対し、監査役監査が従来の弱点を克服できていない現実があると思います。すなわち、コンプライアンスに傾きすぎて(そちらも充分ではありませんが)、経営の効率性の観点からのリスク管理に対する取り組みが疎かになっている問題が存在するのではないか。内部監査のコンプライアンス以外の経営監査に関する「指示や報告の求め」に監査役が適切に対応できるのかという問題です。その意味で、内部監査部門がデュアルレポートラインに単純に賛成できない気持ちも一定理解できます。所属する一般社団法人 監査懇話会では、最近そうした問題意識からの監査役の活動の在り方の検討を進めているところです(「ERMと監査役」「戦略リスク監査」等)。 ■ただ、忘れてはならないのは、こうした問題は監査役(会)だけでなく、監査委員会でも監査等委員会でも同じ問題を抱えていることです。従って監査役だけ除外するのがおかしいことは、制度の建前でなく、実態を見れば分かるはずです。  更に、内部監査の在り方に関しても、海外の事例をそのまま日本に持ち込み、あるべき姿として「攻めのガバナンス」の担い手への進化を当然の如く提示するのは、日本の内部監査の現実を考えると適切ではありません。多くの内部監査部門は、まずは社長直属の下での主にコンプライアンスと内部統制を対象とした準拠性監査とそれに基づく改善提案を中心にしながら、二つの志向性のジレンマ(高度化=経営監査志向と経営者からの独立性志向の矛盾)の中で、活動の段階的なレベルアップと監査役との提携の実効的な在り方を模索しているのが現実でしょう。 ■いずれにしても、本提言が、内部監査と監査役のデュアルレポートラインの本格的な確立にとって、内部監査側での障害となっていると思われる監査役等の抱える弱点を明らかにしたという意味で、一定の意義があったと思います。これを契機に監査役として監査役監査の在り方を冷静に見直すと共に、内部監査部門との忌憚のない対話を通して監査役と内部監査部門の連携をより深化させること、そして会計監査を含めた監査機能全般の実効性向上を図ることが強く求められます。 「日本企業における内部監査機能の強化に向けた政策提言(序文)20200114」 https://bit.ly/32Glqbh 「日本企業における内部監査機能の強化に向けた政策提言(東京大学未来ビジョン研究センター)20200114」 https://bit.ly/38bmZPB 板垣 隆夫(一般社団法人 監査懇話会・会友)