受益者に必要な視点

以下は普段年金ガバナンスについての議論に触れていない読者向けだが、ご参考までに。

皆さんは株主投資にどのようなイメージをお持ちだろうか。このように訊かれると「自分は株式投資をしていないので関係ない」と思われる方が多いような気がする。実はそう思っている方でも株式投資は他人事ではない。皆さんが退職後に必要とする公的年金の積立金運用の中で株式投資への比率が高まっているからだ。新聞等でも大きく報道されたが、公的年金の運用を担う年金積立金管理運用独立行政法人、通称GPIFは2014年10月に運用資産構成(ポートフォリオ)における株式投資の割合をこれまでの33%から50%に引き上げることを表明した。つまり皆さん自身が積極的に株式投資をしようと思っていなくても、みなさんが将来する需給する年金は株式投資の影響を受けることになり、株式投資を自分事として考える必要がある。

株式投資を自分事として考えるとして、先程の株式投資へのイメージの質問に立ち返り、株式投資がどうとらえられているか確認してみる。例えばよく「株は危ない」というコメントを耳にする。確かに株式は元本保証の金融商品ではないため、投資の結果として損をすることがある。持っているだけでは減ることが無い現金と比べると「危ない」という感想を抱くのだろう。また「株はギャンブルだ」という話をする方もいる。確かに株価は日々大きく変動することもあり、それをうまく利用できれば短期的に大きな利益を得ることも可能だ。短期的な利殖という点だけに注目すると競馬などギャンブルとの類似性を感じるのかもしれない。

では株式投資はなぜ存在し続けているのだろうか。それは株式投資が本来は社会に有益なためで、投資先である株式会社も含めてその起源を簡単に振り返ってみたい。最初の株式会社は17世紀初頭の東インド会社であるといわれる。同社設立前はいわゆる大航海時代であり、航海のために多額の資金が必要であるものの、成功すれば社会が大きく改善していた。例えば大航海時代西洋諸国にもたらされた胡椒は食肉の保存に大変有用で、彼らの食生活を大きく変えたことは想像に難くない。このような改善を効率よく生み出していくために作られたのが東インド会社を含めた株式会社であり、それへの投資である株式投資という仕組みなのである。現在でもそれまでに無かった製品・サービスで社会が大きく改善するという例には枚挙にいとまがない。皆さんが日常的に使っているもので、子供の頃には無かったものを思い浮かべてみると良いだろう。

次に年金運用等での株式投資はどのように行われているのか見てみよう。皆さんが毎月の所得から天引きされている拠出金は年金基金に集められ、株式投資の原資となる。年金基金等皆さんの資産を保有する機関を「アセットオーナー(資産保有者)」と呼ぶ。少数のアセットオーナーでは投資先の決定や投資実行を担当する部署があるものの、投資について専門性を持つ「運用会社」に委託することがほとんどだ。このように皆さんの拠出金は通常アセットオーナー、運用会社を経て「株式会社」への投資に用いられている。年金の場合、皆さんが受給年齢に達したら年金を受け取り、みなさんは投資成果の「受益者」となる。別の見方をすると拠出金の運用をアセットオーナーや運用会社が受託しており、彼らは受益者たる皆さんのために最善を尽くす責任があるとも言え、その責任は一般に受託者責任と呼ばれている。

しかし日本では受託者責任を明確に規定した法律はなく、受託者責任に反した行動を取るアセットオーナーや運用会社が出てこないとも限らない。例えば中小企業の厚生年金基金の運用会社だったAIJ投資顧問は運用資産の大半を消失させていたにもかかわらず、アセットオーナーである企業に虚偽報告をしていたことが2012年に発覚し社会問題となった。このような事態を避け、皆さんの試算を守るためにどのようなことができるだろうか。その第一歩はみなさんの拠出金の受託者であるアセットオーナーや運用会社が誰なのか、自分の加入している年金基金や購入している投資信託等の定期的な報告書等を見て知ることである。次にアセットオーナーや運用会社がどのような方針を持ち、取り組みを行なっているのかを確認しよう。多くの機関は2014年から施行されているスチュワードシップ・コードという指針に従い、方針や取り組みを受益者または公に開示している。ただし指針のため、機関により開示内容の充実度は異なり、皆さんにとって説明が不十分と感じるものがあるだろう。その場合はぜひ皆さんから追加説明を求めてほしい。同指針の6-3は、アセットオーナーや運用会社が受益者への効果的かつ効率的な報告をするように求めている。得た情報を基に自分の資産を守るために引き続き自分が資金を拠出することに納得できるかを自問してみてほしい。

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