株式中心のインベストメントチェーン

東京理科大学総合研究院客員教授
(ゆうちょ銀行市場部門執行役員)
清水時彦

日本企業では長いこと、大企業を中心に、年功制、長期雇用、企業内労働組合という3要素が相互補完的に機能して安定的な経営が行われてきた。経営者は従業員出身の場合も多く、経営効率よりは雇用が重視され、社会もそれを求めた。

その背景には、国民がその資産のほとんどを預金として銀行に預け、銀行はそれを企業に貸し出すというメインバンク制があった。ローンなので回収可能性が銀行経営のメルクマールとなり、担保主義と問題が生じた場合の経営関与がその柱で、対象企業の経営効率には焦点が当たらない。一方で国民たる従業員には長期雇用の下で安定的な賃金が支払われていた。

本来なら経営効率の向上を一番に望む株主も、事業の取引先を中心とした持ち合いが支配的であり、彼らも経営の長期的安定性を選好する。

現実はより複雑であろうが、全体を俯瞰すれば、これまでの日本は、国民→銀行→企業→従業員というデットを軸とした資金循環の下で、効率性よりは安定性を重視するシステムであったと言える。

以上は昨年お亡くなりになった青木昌彦元スタンフォード大学教授による比較制度分析に基づく日本の企業システムのアウトラインである。

これらは、人口増加の下で、日本がエマージング的に経済成長している間は有効であったといえる。企業は独自の技術や技能を長期雇用によって蓄積することが競争優位であった。しかし、90年代後半からは生産年齢事項は減少に転じ、また並行して進行している世界的な情報革命の下で既存の技術やビジネスモデルの陳腐化も早くなっている。最近では、AIやIoT、ディスラプティブといった言葉が紙面を賑わすなど、変化の時代といえる。企業も、長期雇用等による人材の囲み込みよりは、環境変化や技術進歩に応じた優秀な専門人材の獲得の方が重要となる。

すなわち、今後の日本の成長には、企業が時代の変化に応じて事業ポートフォリオのリバランスを行い、日本全体として、全要素生産性の上昇、すなわち技術革新を中心に、人的資本も含めた資本効率の持続的な向上を図っていくことが不可欠となる。

ここでの問題が、従来のデット中心の資金フローだ。この循環では成長のための投資は引き出しにくい。加えて、長く続いたデフレがリスクテイクのマインドを減退させた。デフレを脱却し、リスクなしにはリターンがない状態を創出するとともに、既存の資金循環をいわば逆回転させて、株主が経営者に対して経営効率の持続的な向上を厳しく迫るエクイティー中心のインベストメントチェーンとすることが必要だ。これにより国民は、投信や保険、年金を通じて米国並みの高いリターンを享受できる。

ここで認識すべきは、従来型の資金循環は、関連する諸要素が相互補完的に機能して一種の制度的な均衡状態となっており、ほかの均衡に移行するには相当規模の外的ショックが必要なことだ。ゲーム理論でいうネットワーク外部性である。

アベノミクスで進められている企業統治改革や公的・準公的資金の運用等の見直し改革の狙いは、この既存の均衡をエクイティー中心の均衡に移行させることと理解できる。

しかしその実現にはいくつか壁もある。一つは退職金や確定給付企業年金である。これらは円滑な労働移動を妨げ、正規・非正規雇用と同様、人的資本の最適配分を阻害している。働き方改革の一環として見直しが必要だ。もう一つは、企業年金で一向に進んでいないスチュワードシップコードへの署名だ。いずれも、企業経営と企業年金が、短期的な利害を超えて長期的な利益で一致すべき試金石ではないか。

投稿者: 清水時彦

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です