スチュワードシップ研究会: 「日本企業におけるコーポレートガバナンスの問題と「空気」 -「空気」の支配からの脱却-」

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20年の長きにわたって低迷を続けている日本経済の回復は、日本企業の復活なくして達成できない。しかし、日本企業は、新興国企業の追い上げによって、競争力を失ってきている。こうした日本企業の抱える問題は多いが、その最大のものは、コーポレートガバナンスの問題である。本稿では「空気」という概念を用いて、コーポレートガバナンスの問題を考察した。創業経営者企業を除き、多くの日本企業の取締役会は、経営者のリーダーシップではなく、「空気」によって支配されていると考えられる。「空気」は、長い期間をかけて、企業内で共有された価値観や、従業員のコンセンサスによって醸成される。「空気」は、変化を嫌い、事業再編などといった大胆な改革を妨害する。経営者が、もし、こうした改革を本気で着手しようとすれば、企業内に充満した「空気」が、経営者さえも追放してしまう。現在の日本企業の低迷は、経営者が、事業の再編等、本当に自社の企業価値を向上させる戦略を、「空気」の呪縛によって、実行できないことにある。
日本企業の経営者が、この「空気」の支配から脱し、自由な経営を行うことが、日本企業再生のカギとなる。そして、この「空気」の支配を弱める方法として、従来から指摘されている、独立社外取締役の導入及び増員、ダイバーシティの促進、業績連動型報酬の導入、指名委員会の設置といった、コーポレートガバナンスの強化が、実は、最も効果的である。日本企業におけるコーポレートガバナンスの強化とは、経営者を束縛するものではなく、逆に、経営者に経営の自由を与えるものであると考える。

日本企業におけるコーポレートガバナンスの問題と「空気」
-「空気」の支配からの脱却-

1.はじめに

日本経済は、この20年の長きにわたって低迷を続けている。また、過去、電機や自動車業界で圧倒的な競争力を誇った日本企業も、新興国に追い上げられている。日本経済は、企業活動に大きく依拠しており、日本企業の復活なくしては、日本経済の回復は考えられない。日本企業の競争力低下の要因について、様々な議論がされているが、その中でもコーポレートガバナンスの問題が最も重要である。日本企業が競争優位であった時代と比べて、現在、グローバル化、アジアをはじめとした新興国企業の台頭、情報化など、外部環境が大きく変化してきている。こうした状況では、従来型の日本的経営では厳しくなってきており、新しい経営システムが必要となってきている。まさに、日本企業のコーポレートガバナンスの改善が求めれられている。
これまでも、日本企業のコーポレートガバナンスの問題が、よく指摘されてきた。とくに、海外投資家にとって、日本のコーポレートガバナンスの問題は極めて深刻である。確かに、他国と比較して、独立社外取締役が極めて少なく、経営者の業績連動型報酬も低すぎる。しかし、それではなぜ、独立社外取締役や業績連動型報酬が必要なのであろうか。欧米の理論に従えば、これはエージェーシー問題に行き着く。所有と経営が分離された状態では、経営者が会社の所有者である株主ではなく、自らの便益のために経営を行わないかどうか、監視する必要がある。その監視役として、独立社外取締役が必要となる。また、株主と経営者の利益を共有するために、業績連動型報酬が有効となる。
しかしながら、日本企業の多くの経営者が、自らの便益を優先しているようには思えない。逆に、ソフトバンクや楽天のような創業経営者を除いて、日本の経営者は、自由な経営ができているのであろうか。独立社外取締役に監視されている欧米企業の経営者の方が、社内取締役で固められた日本の雇われ経営者よりも、自由な経営がなされているようにも思われる。また、欧米企業の経営者の方が、暴走する頻度も高いように思われる。これは、監視されている経営者よりも、取りまきに囲まれた雇われ経営者の方が自由がないという、極めて不思議な問題であるように思われる。日本企業には、独自のエージェンシー問題を引き起こす「何か」があるのではないだろうか。結論から言えば、この「何か」とは、企業内で醸成される「空気」であり、この「空気」が、日本企業の経営者を縛り付けていると考える。そして、日本企業の経営者が、この「空気」の支配から脱し、自由な経営を行うことが、日本企業再生のカギとなる。さらには、この「空気」の支配を弱める方法として、従来から指摘されているコーポレートガバナンスの強化(独立社外取締役、ダイバーシティ、業績連動型報酬、指名委員会の設置等)が必須であると考える。

2.「空気」の理論

エージェンシー理論と違い、「空気」は、学術用語ではなく、その定義は一律ではない。ただし、現代でも「空気が読めない(KY)」などといった用語が頻繁に使われる。会議でも、出席者ではなく、「空気」が、その会議を支配し、重要な決定がなされるといった経験は、多くの人が共有しているように思われる。今回の問題定義は、創業者経営者企業を除く、多くの日本企業の雇われ経営者企業を対象とする。そして、取締役会が、取締役ではなく、この「空気」によって、重要な経営戦略が決定されているということが、大きな問題であると考える。
この「空気」の研究は、これまでもなされてきている。例えば、山本七平は、第二次世界大戦における戦艦大和の出撃は「空気」によって決定されたと説く。データ分析等による論理的な思考では、この出撃は無謀であり、軍司令部の誰も個人的にはそのように考えていた。しかしながら、軍司令部の誰もが、この「空気」に逆らうことができなかった。また、池田信夫は、山本七平の「空気」の研究を発展させ、日本企業の構造を考察する。彼によれば、「経営者は企業を支配するのではなく、部下に「まつり上げられる」立場であり、実際の仕事は現場が起案して、上司は承認するだけだ。こうした自律分散型の構造は、小集団の利害が一致するときは中央で指示しなくても「創造的に」に秩序を形成して成長できるが、全体をコントロールする司令塔がないので、大きな方向転換がむずかしい。」

3.「空気」に支配される日本企業及びその背景

これから議論していく日本企業の対象について、前提条件を導入する。日本企業といっても、その成長段階は様々であることから、ここで採り上げる企業は、成熟した企業を前提とする。すなわち、経営者が創業者ではなく、ある程度歴史があり、所有と経営の分離が進んだ段階の企業である。簡単に言えば、雇われ経営者企業であるといえる。図1は、日経NEEDS Cgesデータから作成した、日本の上場企業の社長持ち株比率のヒストグラムである。日本の多くの企業は、すでに創業経営者から、雇われ経営者に移行しているといえる。言い換えれば、経営者の持ち株比率が低いため、エージェンシー問題が大きくなり、コーポレートガバナンスが極めて重要になる。日本企業のほとんどが、雇われ経営者企業に該当するため、こうした企業の復活は、日本経済の回復に必須である。、、、、、

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