法と経済のジャーナル:「コーポレートガバナンス・コードの提案者から企業へのアドバイス」 (ニコラス・ベネシュ)

benes-clos-1「私は一年半前に金融庁主導のコーポレートガバナンス・コード(以下、「コード」という)策定を自民党の議員らに提案した。2014年2月には日本経済再生本部と自民党の金融調査会に対して、コーポレートガバナンス・コードの発想、スチュワードシップコードと「車の両輪」の関係にあることなどを説明した。

言い出しっぺとして、私は早い段階で色々なアイデアを議員らおよび金融庁に勝手に提案できる(する)立場になった。そのときの私のアイデアの中にはそれがそのままコード項目になったものが少なくない。しかし、外から言うのは簡単であって、実際に難しい調整を行ったのは自民党の塩崎氏、柴山氏、そして金融庁の担当チームだった。彼らの献身的なリーダ―シップに感心した。

コード制定の経緯には、意外な意義

米国スタンフォード大学で政治学学士号を取得した後、米国カリフォルニア大学(UCLA)で法律博士号・経営学修士号を取得。旧J.P.モルガンにて11年間勤務した後、M&Aアドバイザリー業務に特化する株式会社JTPを創設し率いる。米国カリフォルニア州及びニューヨーク州における弁護士資格。現在、在日米国商工会議所(ACCJ)の成長戦略タスクフォース委員長を務める。

振り返ってみれば、私が最初にコーポレートガバナンス・コードの策定を提案した2013年から、ずいぶん世の中は変わった。二つのコードの導入そのものが大きな変化を反映している。一人の個人の提案がこのように実現できたこと自体が、日本の政策作りのプロセスがより健全な方向へ、つまり合理性と分析を中心とする政治主導型の政策立案プロセスへ、変わりつつあることを物語っている。

発端は、2010年に在日米国商工会議所(ACCJ)の理事として「成長戦略タスク・フォース」を立ち上げたことだった。日本は財政赤字悪化と人口減という恐ろしい課題を抱えており、その観点から我々が見ると、当時の日本政府が発表する成長戦略の類はとても乏しい内容だといわざるを得ず、我々はそれに危機感を抱いた。私は35人ほどのチーム・メンバーと寄附金を集めて、まずは一橋大学の深尾京司教授に実証分析を依頼した。深尾先生はその分析と結論を説明する97頁の論文、「日本経済再生の原動力を求めて」を書いて下さった。(2年後に、同研究を基に深尾先生が書いた本、「『失われた20年』と日本経済 構造的原因と再生への原動力の解明」は日経・経済図書文化賞を受賞した。)

そして、先生の分析に基づいてタスク・フォースが「成長に向けた新たな航路への舵取り ~ 日本の指導者への提言」という100頁の白書を書いて、日本政府、議員、その他さまざまな方に数年をかけて説明した。(http://www.accj.or.jp/images/GSTF_WP_J.pdf、http://bit.ly/1dwxM5a

白書の主要結論と提言した個々の具体策は、ガバナンスに関する提言も含め、外資系企業のために書いたのではなく、純粋に日本経済全体の再生に不可欠と思い、その目的で書いたものだった。我々は日本経済が危機に直面している、と危惧していた。

成長に向けた新たな航路への舵取り ~ 日本の指導者への提言
(ACCJ白書、目次)

1. 総論: 新成長戦略のすゝめ

在日米国商工会議所の成長戦略タスクフォース・プロジェクト
希望的観測によらず、分析に基づいた政策
真の政治的リーダーシップの尺度
技術は成長の源泉
日本はもっと出来る!
実現した国の例
深尾・権レポート: 的を射た分析
Eberhart-Gucwaレポート: 進展の兆し
重要な分析結果と政策的含意
日本の新経済戦略への舵取り

2. 起業を促進し市場にイノベーションをもたらし未来の企業を創出
3. 成長促進及び雇用創出の為の対日直接投資の拡大
4. 全ては教育から始まる:日本の国際化、若年層の再活性化、知識産業の推進
5. 税制で成長と競争力を活性化させ、生産性ある投資とイノベーションを推進
6. 日本への投資を促進させる為の規制や法制度の透明性及びアクセスの向上
7. 「オープンコンバージェンス」の推進でインターネット・エコノミーの最大化
8. 労働流動性の向上が、世界市場における日本の競争力を改善
9. 投資と成長を刺激する為の日本の移民政策の緩和

「日本経済には生産性向上が急務だ」

その後、数年の間、深尾先生の論文と本、および白書は広く政府、議員、官庁等の政策立案者に読まれた。委員長である私にとって、プロジェクトのインパクトはもともとの期待をはるかに超えた。特に、深尾先生から教わった白書の中核的な概念、つまり生産性向上、収益性向上、経済の新陳代謝促進が日本経済再生に必須条件である、という発想は深く根を張った。経済学者にとって真新しい発想ではなかったが、読みやすくまとめられていて、かつ、豊富な具体策が提言されていた。「日本には、第三者による客観的分析に基づいて、政治家がリードする、説得力ある成長戦略が必要だ!」と警鐘を鳴らすことによって、アベノミクスの「第三本の矢」の基盤をそろえたと言えよう。

結果、2014年には「人口減の日本では、生産性向上が急務だ」という正しい現実認識が多くの人に共有された。そのことが、コーポレートガバナンス・コードに関する私の提案が実現した背景にある。逆にいえば、コーポレートガバナンス・コードの基盤となった発想を提供したのは官僚、あるいは、規制される側の産業界ではなく、独立した経済専門家であり、そこが政策実現への道として新しいといえる。私の案はその恩恵を受けた。これは、今後とも日本の政策立案プロセスにとって極めて重要な点だと思う。

会社法改正についての不毛な議論の打開策として、コードを提案

2013年には、私も含めて大勢の方々が参加していた会社法改正議論が足踏み状態に陥っていた。発想転換が必要だった。

主なネックは、たった一人の社外取締役の「義務付け」について2年以上前から続いていた不毛な議論だった。そこで、その疲れた水掛け論の打開策として、2013年10月に私はWall Street Journal に「アベノミクスが必要とする改革とは」という記事を寄せ、コプライ・オア・エクスプレインの手法を採用したガバナンス・コードを提案した。その後、金融庁主導のガバナンス・コードの発想を議員に説明して、詳しいメモも提出した。

2014年1月には本誌「法と経済のジャーナル Asahi Judiciary」に「上場企業が目指すべきベスト・プラクティスの行動基準を」の見出しの下で日本版コーポレートガバナンス・コードの策定を提案する記事を載せた。その後ほどなくして、私は提案を日本経済再生本部と金融調査会の会議で説明するよう呼ばれた。10月27日には再び本誌AJに「日本版コーポレートガバナンス・コードが目指すべき方向」を寄稿した。

一言でいえば、自民党(特に塩崎氏と柴山氏)は政治的なリーダシップを発揮した。コード制定の原点は従来の官僚頼みのプロセスではなかった。ひたすら合理性と課題意識が「熟」した、というケースだ。、、、、」

記事の全文を読む
http://judiciary.asahi.com/fukabori/2015052000001.html

 

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