「意識的な回避」はFCPA上の認識を成立させるに足るか? - それはどの裁判所に判断を委ねるかによる

(Morrison Foerster  執筆者 ポール T. フリードマン/ルティ ・スミスライン 

"2011年、米国司法省および米国証券取引委員会は、FCPA違反について個人に責任を課すという積極的な運用方針の採用を継続した。個人は、懲役刑を処される現実的な可能性に直面し、和解を受け入れるのではなく、裁判所での反撃を開始した。その結果、1977年のFCPA制定以降いかなる時期よりも、まさに今こそ、政府によるFCPAの広範な解釈の輪郭が、裁判所の決定により形成されつつある。とはいえ、これが、裁判所の解釈が常に一貫していたことを意味するわけではない。

BOURKE判決

2011年末、米国第2巡回区控訴裁判所は、国営石油企業の民営化計画についてアゼルバイジャンの政府高官に対して行った贈賄スキームを発端とするFrederic Bourkeの有罪認定を支持した。

高級ハンドバッグブランドDooney&Bourkeの共同設立者であるBourkeは、その疑わしい評判から「プラハの海賊」との異名を持つ国際実業家Victor Kozenyが組織した投資家のコンソーシアムに参加したかどで、2005年に起訴された。米国政府は、Kozenyが、国営石油企業の確実な民営化のためにアゼルバイジャンの数々の政府高官への支払いを行うことを目的として、数千万ドルを調達したと主張した。最終的に当該企業は民営化されず、Kozenyは、Bourkeを含むその他投資家とともに、かかるベンチャーへの投資額の全てを失った。

2009年、Bourkeは、FCPA違反を共謀したとして、陪審審理後に有罪認定を受けた。審理中、Bourkeは、贈賄スキームについて認識していなかったと一貫して主張した。政府は、贈賄についてBourkeに現実の認識があったという理論を主に展開する一方で、裁判官に対し、「意識的な回避」の理論に基づきBourkeに有罪認定を与えることができる旨の情報を陪審員に与えるよう要請した。つまり、Bourkeが、賄賂が支払われていることの「高い可能性」を認識していたが「意識的かつ意図的に、その事実を確認することを回避した」のであれば、陪審員は、Bourkeを有罪とするために必要な認識をBourkeが有していたと判断することが可能であるということである。陪審員は、Bourkeが贈賄スキームについて認識することを意識的に回避していたと判断し、Bourkeを有罪とした。そしてBourkeには、1年と1日の禁錮刑および100万ドルの罰金が科された。

Bourkeは、予審法廷の裁判官が陪審員に対し、意識的な回避について不当に説示した等、いくつかの根拠に基づき、有罪認定を上訴した。Bourkeは、政府が「意識的な回避」理論を成立させるに足る証拠の提示を怠ったと主張した。控訴裁判所はこれに異議を唱え、Bourkeがアゼルバイジャンにおける腐敗について認識しており、Kozenyの悪評判についても知っていたことの証拠を裁判で引用した[1]。裁判所はまた、Kozenyが政府高官への贈賄を行っている可能性があるという懸念について、Bourkeが(録音された会話の中で)別の投資家および自らの弁護士に述べたという事実を指摘した。裁判所は、別の投資家が、自らが行った調査の結果、FCPA遵守について違和感を感じたためにベンチャー投資への参加を断ったという事実に依拠した。裁判所は、「Bourkeが[別の投資家が]実施したのと同様のデューディリジェンスの実施を自らの弁護士に依頼しなかったのは、Bourkeが贈賄について認識することを意識的に回避していたからである、とする政府の主張は、全面的に正当である」と判示した[2]。

Bourke判決は、個人が贈賄スキームについて現実の認識を有していたとの証拠がなかったとしても贈賄罪を理由として訴追される可能性があるという、政府の長年にわたる見解を再確認するものである。同判決はまた、投機的事業に手を出す前にFCPAについてデューディリジェンスを実施することの重要性を強調し、デューディリジェンスを実施しないことが、認識可能であった事実からの逃げ道を与えるわけではないという事実を際立たせるものである。

LINDSEY事件における意識的な無視

その一方、昨年12月、Lindsey Manufacturers Co.および幹部2名に対する有罪認定を、連邦裁判所裁判官が検察の職権濫用を理由として無効にした際には、米国政府は敗北を喫している[3]。

Bourke判決において行われた陪審員に対する説示という方法に従わないことで、Lindsey事件の予審法廷裁判官は、「意図的な無知」または「意識的な無視」のいずれかを含めよとする政府の要請を拒否したのである[4]。代わりに、Matz裁判官は、被告人がFCPA上必要な認識を持っていたと認定するには、政府は、贈賄について現実の認識または「状況が存在することの高い可能性」を証明しなくてはならないと説示した。

意識的な回避の説示を裁判所が許可しなかったにもかかわらず、検察官は最終弁論で、「高い可能性」の説示の論理的根拠として、法律が「悪事について見て見ぬふりをすることはできないと述べている」ためであると説明を始めた。しかし、検察官が話を終える前に、被告人側が異議を申し立てた。検察官は謝罪したものの話を続け、目を覆って陪審に「被告人は、…この煙やレッドフラッグ(警戒信号)を見ていながらそこで目を瞑ってはいけない」と語った[5]。

第2巡回区控訴裁判所がBourke判決を下す数日前に下された有罪認定を無効とするために、Matz裁判官は、検察が「認識」と「意識的な無視」とを暗黙のうちに同一視したことは、法律の「虚偽の説明」であると判示した[6]。裁判所は、被告人が必要な非難されるべき認識を有していたか否かが、Lindsey事件における最も激しい争点のひとつであったと述べた。Matz裁判官によれば、意識的な無視に基づき過失責任の認定を陪審に許可することで、「少なくとも数名の疲労困憊した陪審員の共感が間違いなく呼び起こされ、」有罪認定の棄却が保証された。

結論

制限されつつも拡大しているFCPA法学の世界においては、要件とされる非難されるべき認識の水準要件について、相反する判例が出現してきているようである。この問題がどのように進展し、最終的にどのように解決されるかは、現時点では定かではない。2012年以降は、更なる異議申立てによりこの問題が明確になる可能性がある。一方、Bourkeは、懲役刑開始のため、2012年1月3日に自らの身を引き渡すことを命じられた。"

 脚注

[1] United States v. Bourke事件、 No. 09-4704-cr(L) (第2巡回区控訴裁判所、2011年12月14日)。
[2] 同掲書。
[3] 当事務所のクライアント・アラート「虚偽の宣誓と証言がFCPA裁判における法人に対する初の陪審評決をくじく」(日本語版2011年12月20日掲載)を参照。
[4] United States v. Noriega, et al.事件、 No. 10-01031(A)-AHM (2011年12月1日) 21頁。
[5] 同掲書22頁。
[6] 同掲書23頁。

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